末包 研究室

東京工業大学
工学院機械系
機械コース / エネルギーコース

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研究内容



石油増進回収技術(EOR)


21世紀において私たちは世界的に見た時、エネルギー危機に直面しているといえます。なぜなら、私たちの生活を根底から支えている原油は、中国、インドなどの新興国を中心として、世界的に需要が伸びているからです。人類の発展の為に、原油の更なる回収が求められています。 しかしながら、現在の人類による原油の生産は、一次回収では原始埋蔵量の約10%、二次回収では約30%と低く留まっており、非効率なプロセスであるといえます。原油生産効率の向上は、エネルギー危機を克服するための重要な解決策でしょう。 原油は地下数千メートルに存在する貯留層内に染み込むような形で存在しています。従来は、二次回収として、水を貯留層内に圧入して生産を行う水攻法が行われてきました。この方法では約80%程の原油が貯留層内に残留してしまいます。 そこで近年、水とガスを相互に圧入する水ガス相互圧入法(WAG法)が注目されています。しかしこの方法は、流体の挙動予測が難しいことやガス圧入コストがかかるなど、操業の最適化が急がれています。WAGの技術向上には、貯留相内を流れる水とガスの挙動を空隙スケールで理解することが非常に重要であるといえます。そこで当研究室では、貯留層を模擬した多孔質体内を流れる水、ガス、油の三相流れをX線CT装置を用いて可視化し、流動現象の解明に取り組んでいます。



二酸化炭素地下貯留技術(CCS)



(1) 残留ガストラッピング

IPCC気候変動に関する政府間パネルによると、二酸化炭素は地球温暖化に最も影響を与える温室効果ガスと言われています。二酸化炭素の排出量削減が求められています。

二酸化炭素の地下貯留技術は二酸化炭素の排出量削減に対し即効性がある為、現在注目されています。二酸化炭素の地下貯留技術とは、火力発電所や製鉄所などの大規模発生源から排出される二酸化炭素ガスを、地下深部(約約1km以深)の地層中に圧入するというものです。貯留ポテンシャルとして、世界全体の年間排出量の150-1500年分存在すると試算されており、二酸化炭素を大量に隔離することが可能と考えられています。

二酸化炭素の地下貯留における主要な課題の一つは漏洩のリスクをいかに軽減するかということです。そのためには、地下に隔離された二酸化炭素の挙動を三次元的に理解する必要がありますが、可視化が困難な点をはじめ様々な困難から、三次元による実験は行われてきませんでした。

当研究室では排水過程における非湿潤相飽和率に界面不安定性が与える影響について、無次元数を用いて評価しています。残留ガストラップ量を予測するためには、非湿潤相飽和率推定法の確立が必要です。したがって、フィンガリングが非湿潤相飽和率に対して与える影響を無次元数により整理し、非湿潤相飽和率を無次元数の関数としたモデルの構築を目指しています。


(2) 溶解トラッピング

CCSにより帯水層へ圧入されたCO2は周りの地下水へと溶解プロセスを伴って、長い時間をかけて分解されていくと言われています。地下に貯留した際のCO2の挙動について, 多孔体における自然対流現象の解明が大きな役割を担っています。その中で、溶解時間を算定することは安全性の観点から重要な問題です.

当研究室では地層構造を模擬し、マイクロフォーカスのX線CTスキャナを使用することにより実験的に二酸化炭素と地下水の挙動の三次元可視化に取り組んでいます。得られるCT画像の時間、空間的な解析から、地下圧入層にて起こっている現象の解明及び新しいモデルの構築を行っています。対流の挙動および物質輸送現象について実験的な解明を試みる事で、CCSの実現に向けて研究に取り組んでいます.



貯留層シミュレーションに向けた格子ボルツマン解析


二酸化炭素地下貯留や原油増進回収を行う際には,貯留層シミュレーションによって予測を立てることが重要です.貯留層シミュレーションを行うためには貯留層に関するパラメータを入力する必要があります.これらのパラメータは実験を行って得ることが出来ますが,高コスト,長時間という問題点が挙げられます.一方で,近年X線CT装置の発展に伴って,岩石多孔質の空隙構造を非破壊で観察し,多孔質データを取得することが可能となってきています.そして従来の実験的手法を数値解析に置き換える「デジタル・コア・ラボラトリー」という概念が提唱されています.末包研では,貯留層シミュレーションのために必要な貯留層パラメータを短時間かつ低コストで取得することを目指し,格子ボルツマン法を用いた技術開発を行っています.

(格子ボルツマン法は数値流体解析手法の一つです.複雑形状の物体に対する境界条件と流体間の界面張力の設定が容易なため,多孔質内の多相流解析に向いているという特徴があります.)



分子動力学法を用いたシェールガス流動解析


近年、地下資源開発の技術が向上したことにより、従来は生産できなかった天然ガスなどが回収できるようになり、世界のエネルギー事情が大きく変わると言われています。特に天然ガスの根源岩であるシェール層に存在するシェールガスの開発が急速に進んでいます。世界的な見方としてはこれからもシェールガス開発は、エネルギー源として重要な位置を占めると予想されています。しかしながら、シェールガスの流動現象は物理的に明らかになっていません。当研究室では、シェールガスの主成分であるメタン分子の地下での流動現象について、分子動力学法を用いて現象の解明に取り組んでいます。



再生可能エネルギー


また、地球温暖化対策として最近では、高い成長率と単位面積当たりのオイル収穫量の大きな微細藻類による、バイオディーゼル油の生産が注目を受けています。当研究室では、二酸化炭素排出量を削減するため従来の石炭火力発電所に藻類によるオイルを組み合わせたシステムを提案しました。

研究の目的は、二酸化炭素を排出する石炭火力発電所と、二酸化炭素を吸収することで成長し石炭燃料使用量を削減する藻類の、ハイブリッドシステムの分析を行うことでした。

煙道ガスより、アミン系の化学薬品を使用する事でCO2を回収します。予備実験では、二酸化炭素濃度15%の煙道ガスに水を噴霧することで54%の二酸化炭素を除去できました。1000MW級の石炭火力発電所から排出されるCO2を利用した養殖池の推定面積は約339平方キロメートルです。単位電力出力あたりのCO2排出量と石炭消費の改善は、去勢塔の低い高さで検出することができます。





混相流の大規模数値シミュレーション手法の開発


格子系のステンシル計算を行う数値流体シミュレーションでは,演算よりメモリアクセスに時間を要するため,GPUのような広いメモリバンド幅を持つアクセラレータを利用することによって高い実行性能を引き出すことができます. 東工大のスパコンTSUBAMEに搭載されているGPUを複数台用いる計算コードを開発することで,大規模な数値シミュレーションが可能となりますが,圧力ポアソン方程式を解く半陰解法では問題依存でスケーリングが悪化する問題がありました. そこで我々は,有限差分法・有限体積法の枠組みで弱圧縮性を許容した計算手法を開発し,問題に依存しない理想的なスケーリングを達成することができました. 弱圧縮性を許容する手法として近年注目を集めている格子ボルツマン法と比較して,数値安定性的に厳しい流動状況(高密度比,激しい流れなど)でも安定に計算できる利点を持ちます. 有限体積法の適用と勾配制限による運動量保存性と数値安定性の担保や,気液界面捕獲手法の改善,複雑境界の取り扱いなど多方面からの計算手法改善を継続的に行っています.



界面に適合するAMR法による高解像度混相流解析


3次元空間上で格子間隔を半分にするような高解像度化を行う場合,総格子点数は8倍となり,典型的な移流支配の流れが解析対象ならば時間刻み幅は半分となるので,同じ物理時間まで計算するためには16倍の計算コストが必要となります. そこで,格子点数を削減する手法として,全領域を同じ解像度の格子で切らずに必要な部分のみ高解像度格子を用いるAMR(Adaptive Mesh Refinement)法の考え方が登場しました.AMR法自体は1980年代から提案されていたにも関わらず,気液界面に高解像度格子を集めるAMR法は実装と数値的困難さから,実用的な例はほとんど報告されていませんでした. 開発を進めてきた弱圧縮性気液二相流計算手法では,圧力ポアソン方程式を解く必要がないため,解像度差に起因するポアソン方程式の収束性悪化の問題にも阻まれず,ブロック構造格子を用いたAMR法を採用することで,高効率にGPU上で計算可能です. 気液界面は時々刻々動いていきますので,動的に細分化格子を適合する必要があり,複数GPUを用いる場合は動的な領域分割が必要になります.動的領域分割を行うAMR法の複数GPU実装は難易度が高く,ほとんどやられていませんが,フルスクラッチでコード開発を行っており,良好なスケーリングを達成しています.開発したコードを用いて産業界で求められている解析対象の実スケール解析等を行っています.



界面活性剤溶液/粘弾性流体の数値シミュレーション


高解像度気液二相流計算の実現により,これまで解像しきれなかった薄い液膜を含む流れが格子系計算でも解析対象になってきています. 薄膜を含む気液界面のダイナミクスには界面活性剤や粘弾性効果が影響しており,それらの効果をモデル化して流体計算と組み合わせる試みを行っています.特に界面活性剤の表面張力低下効果によるマランゴニ効果は液膜のダイナミクスに大きな影響を与えています.

多孔質内に残留する石油の回収効率向上のために,界面活性剤を入りの流体や泡沫状にした流体,ポリマーなどの粘弾性流体を注入する試みが実験的になされています.それらの複雑な流体的挙動によって生じる混相流の物理を数値シミュレーションで解明するための手法の確立に向けた検討を行っています.





多孔質体内の大規模混相流シミュレーション




X線CT画像から取得した形状データを用いた高精度流体シミュレーションから多孔体の相対浸透係数等の重要な情報を得るアプローチであるデジタルロックフィジックスと呼ばれる概念があります. 実験ではボーリング調査等で取得される岩石コアを用いて1ヶ月オーダーのコストをかけてようやく多孔質の特性が得られます. 数値計算では任意の多孔質形状を用いて計算できるため,岩石破片などから多孔質特性を抽出することができます. 実験と比較して数値計算では時間的・経済的コストを削減できるだけでなく,圧力分布や速度分布などの空間的なデータを得ることができたり,効果的な注入スキーム・物性値を検討する強力なツールになります. 弱圧縮性手法による混相流計算では,spurious currentのような局所的擬似速度が出ても高い数値安定性を持っており,実際の多孔質内の流動条件下でも計算可能であるという利点を持っています. 大規模計算に適合しながら,高い数値安定性を持つ手法の適用によってこれまで計算が困難であった低キャピラリー数流れや高密度比計算が可能であることを実証し,相対浸透係数を得ることにも成功しています.